皆さんこんにちは、今月の歯の豆知識を担当させていただきます、歯科医師の近藤恭平です。
皆さんは『歯茎がやせてきた』や『歯がしみるようになった』など気になることがありますか?
自分ではないけれど、周りのご家族や友人などから話を聞いたことがあるかもしれません。
歯がしみたり、歯茎がやせるなどの原因の一つとして歯肉退縮が挙げられますが、50歳以上で100%、小さいお子さんにも8%の方に歯肉退縮がみられるとされています。
せっかく多くの歯が残るのなら、きれいな歯肉のまま残したいですよね。
今回は歯肉退縮のメカニズムについてお話しさせていただきます。
歯肉退縮を診るときのコツ=骨を診る
骨の減り方にお大きく2パターンあります。一つはもともと骨がなかった『骨欠損』、もう一つはあった骨が減ってしまった『骨吸収』の2パターンです。
1.骨欠損
もともと骨がない骨欠損ですが、意外にも多いのです。小さい顎に大きな歯が並んでいる(歯と顎の大きさのアンバランス)、顎の骨(歯列弓)から歯がはみ出している(歯の位置異常)、歯の傾斜がきつい(傾斜異常)などが原因とされています。
2.骨吸収
もともとあった骨がなくなってしまった骨吸収の原因として、歯周病に加えて摩耗症、アブフラクション、歯列矯正による歯の移動などがあります。摩耗症は不適切なブラッシングにより生じることが多く、アブフラクションは食いしばりや歯ぎしりなどの強い咬合力が原因で、歯頚部に応力が集中して生じた歯質の欠損(くさび上欠損)を指します。
骨吸収が起こるメカニズム
骨は一度できたらずっと同じままではなく、常に新しい骨に入れ替わっています。古い骨は壊され(=骨吸収)、新たに骨が作られる(=骨形成)、これを『骨のリモデリング』といいます。骨を壊す破骨細胞が減らした分だけ骨芽細胞が骨をせっせと作る、骨吸収と骨形成のバランスが取れた状態が正常な骨のリモデリングです。
健康な歯周組織ではこの二つの細胞がちょうどよいバランスを保っていますが、歯周病になって歯周組織に炎症が起こると状況は一変します。体内の指令部隊(マクロファージやリンパ球)から骨を破壊するよう指令が破骨細胞にどんどん送られ、破骨細胞が活性化することで骨破壊のスピードが促進され、骨芽細胞がついていけずに骨が減っていきます。
歯肉退縮が起こりやすい人はどんな人?
骨が減ったために歯肉がずり下がってくる、これが歯肉退縮の本質です。患者さんがもともともっている『骨の厚み』と『歯肉の厚み』によって歯肉退縮が起こりやすいかどうかが決まります。骨の厚みはCTでわかりますが、装置がない場合には歯頚部の歯肉のラインでおおよその判断ができます。骨が厚いほど歯肉のマージンは平坦なラインになっています。歯肉の厚みの中でも特に大切なのが付着歯肉の幅です。付着歯肉の特徴は、可動性がなく硬いこと、歯肉退縮のリスクを診るときに骨と併せてこの付着歯肉の幅を診ることが大切です。
骨も厚く付着歯肉も十分にあるタイプ(Maynardの分類TypeⅠ)は、歯肉退縮はほとんど起こりません。逆に、骨も付着歯肉も少ないタイプ(Maynardの分類TypeⅣ)は歯肉退縮のリスクは非常に高くなってしまいます。このため、TypeⅣの方が矯正治療や補綴治療を受ける場合、歯肉退縮を少なくするために前もって他の部位の歯肉を移植することがあります。骨は薄いままですが、付着歯肉を厚く(Maynardの分類TypeⅢ)することで、歯科治療後の歯肉退縮を防ぐことができるからです。
雑誌「デンタルハイジーン」2021年11月号より転載
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